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カルテ(三十一)―怪我の功名 出血で病気が治る?

2010年06月21日

実際の症例から漢方の奥義に迫るカルテシリーズも早いもので、もう31回目。今回ご紹介するのは、科挙のある受験者の話である。彼は目が腫れて痛む上、はっきりと物が見えなかった。今でいう結膜炎の類であろうか。その彼はある時、ちょっとした不運に見舞われる。店でお茶を飲んでいたら、突如、鉄の鍵が落ちてきて彼の頭に直撃したのだ。そして彼の頭からは、紫色を帯びたどす黒い血が大量に流れ出た。その後幸いにも自然に止血したので宿へと戻ることにしたのだが、その道中、彼はふとあることに気付く。目の前の世界がはっきりと見えるのだ。つまり、彼を悩ませていた目の病気が治ったのである。 

通常、出血したら何とかして止血をするものだ。だが、漢方ではこの出血が時に治療法にすらなる。つまり、それが瀉血(しゃけつ)である。というのも、漢方では多くの病気は経絡の気血が詰まったために起こる、ととらえる。血が詰まってどす黒くなったものが瘀血(おけつ)と呼ばれるが、それを除くのが瀉血だ。今回の物語の主人公は、思いがけない怪我により、瘀血が除くことが出来たため、病が治ったのである。まさに怪我の功名だ。
 
スムーズな流れをさえぎるものを除くことで解決する。これは単に体の治療に限らないのかもしれない。例えば心に潜むこだわり、執着心といったものも健やかな精神状態を阻害するのではないだろうか。執着心を除けば、ずっと自分を苦しめていた悩みやもやもやが消えて、のびやかに生きていける。ただし、心の執着心を除く治療法はない。それができるのは、自分自身のみだ。堅い決意をもてるかどうか、それが鍵を握るのである。

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